1-9 日本軍「慰安婦」制度は犯罪なの?

日本軍「慰安婦」制度は、日本政府自ら「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である」(「河野談話」)と認めているように、女性に対する重大な人権侵害です。さらに国際社会は、「慰安婦」制度という名の性奴隷制が「人道に対する罪」であるという判断を下しています。このことをみていきましょう。

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人道に対する罪と性暴力

「人道に対する罪」は19世紀に起源をもち、ユダヤ人に対するナチ犯罪を裁いたニュルンベルグ裁判、旧日本軍・政府首脳を裁いた東京裁判をつうじて、国際法として確立されてきました。「人道に対する罪」とは、 “広範囲で組織的”な攻撃の一部として、国家または組織の政策として、文民に対する殺戮、殲滅、政治的・人種的・宗教的な理由による迫害、奴隷化、追放その他の非人道的行為をさす戦争犯罪概念です。戦時だけでなく、平時でも適用されます。

しかし戦争・武力紛争下の強かんや性奴隷化は、東京裁判・BC級裁判などで戦争犯罪として十分に処罰されてきませんでした。しかし1990年代に旧ユーゴスラビアで起こった集団的で組織的な強かん(民族浄化の一環)が、旧ユーゴスラビア国際刑事法廷で歴史上初めて「人道に対する罪」として独立して裁かれ、処罰の対象になりました。

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女性国際戦犯法廷が裁いた「慰安婦」制度

日本軍「慰安婦」制度を国際法で詳細に検討した国連人権小委員会のマクドゥーガル報告(1998年・2000年)は、犯罪が大規模であり、軍慰安所の設置・監督・運営に日本軍が関与したことから、日本軍の軍人・軍属に「人道に対する罪」の責任を問うことができるし、戦後の日本政府も損害賠償の義務を負うと明言しました。この報告書は、次に述べる女性国際戦犯法廷、そして2007年に採決された欧州議会「慰安婦」決議(加盟27カ国)などに、大きな影響を与えました。

2000年に東京で開かれた「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」(次頁写真)では、旧ユーゴスラビア国際刑事法廷で所長や顧問をつとめた国際法の名高い専門家が加わり、日本軍「慰安婦」制度に関する膨大な公文書など文書類、被害者や加害兵士の証言などにもとづき、犯罪が行なわれた当時の国際法によって裁きました。この最終判決文(2001年12月オランダ・ハーグ)では日本軍「慰安婦」制度に対する詳しい事実認定と法的分析を行ない、強かんと軍「慰安婦」制度を「人道に対する罪」とする判決を下しました。

なぜ、「慰安婦」制度は「人道に対する罪」なのか

では、どのような意味で「人道に対する罪」であるのか、みていきましょう。

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女性国際戦犯法廷の判事団。

最終判決文は、まず、日本政府の最高レベルの認可にもとづき日本軍は将兵が利用するために性奴隷施設(=慰安所)を創設・管理し、運営したこと、軍が「慰安婦」の徴集に関与したこと、アジア太平洋地域の少女と女性たちが拉致、強制、あるいは欺まん的な手段で連行され、強制的に性奴隷制に組み込まれたこと、一度奴隷化されると継続的に強かんされ、監禁状態に置かれた、と「事実の認定」をしました。
これは「人道に対する罪」に当てはまるのでしょうか。1937年から1945年までの行為が「人道に対する罪」を構成するためには、その行為が①戦前または戦時中に、②一般住民に対する広範囲または組織的な攻撃の一環として、③戦争犯罪または平和に対する罪に関連して行なわれたものでなければなりません。「慰安婦」への強かんと性奴隷制は、「事実の認定」が示すとおり“広範囲で組織的”であり、その条件をみたしています。

戦地における「強かん」は、第二次世界大戦当時でも、1907年のハーグ陸戦条約で禁止されており、その違反行為は訴追されるべき戦争犯罪でした。さらに「制度化された強かん、すなわち性奴隷制」に関わる法としては、当時、①1926年の奴隷条約による奴隷制の禁止は1937年までに慣習国際法化していた、②1907年のハーグ陸戦条約(日本も批准)では占領地住民の奴隷化を禁止していた、③1930年の強制労働条約(日本も批准)では強制労働は禁止されていた、④「婦女売買禁止国際条約」があり、日本も1904年・1910年・1921年の同条約を批准していた、⑤強制売春は慣習法で禁止されており、戦後のオランダ軍事法廷(BC級戦犯裁判)では日本人被告人が有罪とされていた、などがありました。

「人道に対する罪」としての強かんと日本軍「慰安婦」制度

そのうえで最終判決文は「『性奴隷制』の罪は奴隷化及び強制労働の一形態であり、『性奴隷制』の用語は1937~1945年には使用されていなかったとしても、当時の国際法上の犯罪であったと認定する」と述べています。

結論として最終判決文は、「日本軍と政府当局は第二次大戦中に、『慰安婦』制度の一環として日本軍への性的隷属を強要された数万人の女性と少女に対して、人道に対する罪としての強かんと性奴隷制を実行した」と明確に認定しました。

このように、「人道に対する罪」を構成するのは“広範囲で組織的”に行なわれた殺人、殲滅、奴隷化、強制移送その他の非人道的行為ですが、その意味で日本軍「慰安婦」制度は「人道に対する罪」としての強かんと性奴隷制なのであり、日本軍・政府によって行なわれた女性に対する重大な人権侵害というべきでしょう。

(2022年8月12日更新)

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<参考文献>

・ゲイ・マクドゥーガル著・VAWW-NET ジャパン訳『戦時・性暴力をどう裁くか―国連マクドゥーガル報告全訳〈増補新装2000年版〉』凱風社、2000年

・VAWW-NET ジャパン編『女性国際戦犯法廷の全記録Ⅱ—日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷Vol.6』緑風出版、2002年

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