「慰安婦」ソウル高裁判決は「国際法違反」か?世界は国家より人権中心の法秩序へ(週刊金曜日) – Yahoo!ニュース”]
2023年11月23日、韓国のソウル高裁は日本政府に対し、日本軍「慰安婦」被害者と遺族ら16人に賠償するよう命じた。賠償金額は1人あたり2億ウォン(約2300万円)だ。一次訴訟の一審は勝訴。二次訴訟の一審は敗訴、今回の二審で逆転勝訴となった。 日本政府は上告せず、12月9日、ソウル高裁判決は確定した。日本政府は国際慣習法上の「主権免除」を理由として「国際法違反」だと主張。上川陽子外務大臣は断じて受け入れないと発言した。 1月25日、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動は、訴えた原告・被害者たちの思い、この判決の意義について、原告代理人弁護団メンバーを招き、衆議院第2議員会館で集会を開催。会場・オンライン合わせて200人が参加した。 そもそも「主権免除」とは主権国家は他国の裁判権に従うことを免除されるという国際慣習法上の規則だ。しかし「主権免除」には例外がある。 長らく戦後補償裁判に関わってきた山本晴太弁護士は「大まかには①商行為例外(制限免除主義)、②不法行為例外、③人権例外があるが、本判決は『法廷地国内でその国民に対して発生した不法行為に対しては、その行為が主権的行為であるか否かを問わずに国家免除を認めない内容の国際慣習法が現在存在する』として日本の主権免除を否定した」と説明する。 すなわち一次訴訟の一審判決(21年1月8日)の「人権例外」ではなく、今回の二次訴訟の二審判決は「不法行為例外」を採用して主権免除を否定しているのである。
国際法は進化している!
なぜこうした判決が可能だったのか。日本政府の主張だけを伝える報道が多いため、韓国は国際法違反をしていると理解している人が多いかもしれない。しかし判決と李相姫弁護団長らの報告を聞くと、その認識は覆されるだろう。 金詣知弁護士は国際法の観点から判決を振り返った。まず一審判決以降、ブラジル、ウクライナ、イギリスなどで「主権免除」を否定し人権を保障する判決が続出した。たとえば21年8月、ブラジル連邦最高裁判所は、第二次世界大戦中にドイツ潜水艦によるブラジル漁船撃沈事件で外国国家が人権を侵害して行なった不法行為は主権免除を適用されないと判断した。この判決には韓国一審判決が引用された。 22年4月、ウクライナ最高裁判所判決は、14年ロシア侵攻時の戦死者遺族がロシアを訴えた事件では「ウクライナの主権を侵害する国の主権を免除する義務はない」とロシアの主権免除を否定した。 国際法はどんどん進化しているのだ。李弁護団長は、訴訟が直面した挑戦は「被害者が人権の主体として認められるかであった。つまり被害者らの裁判請求権=『基本権保障のための基本権』を守ること」だとし「今回の判決は国家法秩序が国家中心から人権中心に発展する過程で出されたものだ」とその意義を述べた。 また「2015年日韓合意」についてソウル高裁は、これは両国の政府間合意。本訴訟は被害者が直接日本国を相手に損害賠償を求めたという点で「日韓合意」は影響を及ぼさないとした。もとはといえば政治決着をしたことで、被害者らは最後の手段として訴訟を起こすことになったのだ。 權泰允弁護士からは、今後残された課題として、日本政府による履行と、韓国政府がそれに協力することが指摘された。 山本弁護士は、これはハードルが高いと認識を示しつつも「日本軍『慰安婦』訴訟は、『先進的な一審判決』『堅実な二審判決』と言える。主権免除を否定できるほど国際法が進化した今、被害者の救済の力になるだろう」。李弁護団長も「今も生まれている戦争犯罪の被害者たちにとって希望の光になるのではないか」と語った。 日本政府が「国際法違反」だと本判決を無視し続けても、主権免除を否定して被害者の人権を保障する各国の実践が積み重ねられる中で、今回の判決の意義を受け止めることは、私たち市民にとって大変有意義ではないだろうか。
岡本有佳・編集者