日本軍将兵の戦記
細川忠矩『戦場道中記』一九九二年、私家版、七一~七二頁、
車は草ばかりの丘を登りつめて、板囲いの一棟がぽつんと建っている前で停止した。入口には「長沙慰安所」の看板が麗々しくかかっていて、折りからの西陽に明るく映えていた。
中を覗くと、前線が遠くに進出していて激戦の最中であるせいか、お客は少ないようだった。半坪の土間の奥に布団「敷放し」の三畳一間の客室があって、その周囲は隙間風も通るベニヤ板で囲い、それらしい色香もない殺風景なものであった。客間は全部で五室あった。しかし、さすがに布団だけは色っぽかった。
土間の通路を狭んで反対側に事務室、男便所、女便所と並んだ、何の変てつもない建物だ。五間の客室は只今二間使用中である。
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