日本軍将兵の戦記
神出杉雄『大陸戦線こぼれ話』文芸社・二〇〇三年・六一―六二頁。
(一九四五年頃の華北の軍人クラブ(慰安所))
私はくに子と親しくなり、暇を見てはくに子のところへ行くようになったが、彼女の方も私を気にいって、いつも歓迎してくれた。私が行くと彼女は部屋の入り口を締め切って誰も出入りさせないで、二人で半日でもいろいろな話をしていた。(中略)あるとき、あなたたちのような聡明な女性がなぜこんなところへ来てこういう仕事をしているのかと訊いてみると、その中の、花子というありふれた日本名を名乗る肉付きのいい大柄の女性が、「私もこの女ひとたちも会社は違うけど、朝鮮で事務員をやってたのよ。そこへある人が来て、お前たちこんな日本人の会社でいくらもらてるんだ。もっとお金になるいい仕事があるから俺の方へ来ないかって誘われて、私たちみんなだまされて連れて来られたのよ。同じ朝鮮の人にだまされたのよ」と、その一部始終を語り始めた。そのようにして女性たちを集めて、管理し、支配しているのは、韓国人の業者だった。いい話につられてそれぞれ相当の前借を背負い込んでしまった彼女たちは、もう後戻りすることはできないのだ。私は彼女たちの話をいろいろと聞いて暗然としながら、そういう女性ブローカーの存在は許せないと思ったが、私の思いでそれはどうなるものでもなかった。
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