ラバウル郊外のココポ
日本軍将兵の戦記
高橋義『あゝラバウル』曰新報道出版部、一九七〇年、一四四~一四五頁、
きちんと身仕度をした愛子が、貴男だけは信じてと自分の数奇な運命を涙ながらに語り出した。
長野県の片田舎に生まれた彼女は、大東亜戦争勃発と共に忠君愛国の至情に燃え従軍看護婦に志願。遠く外地に病める兵士を慰めんものと雄々しくも第一線の陸軍病院に勤務する事になった。しかし彼女の美貌が院長にみそめられ、秘書としていやがる彼女を無理矢理に、院長の身のまわりの世話をさせ少しの書類の整理で、いつも自分のそばから離さない。同僚からは何時も羨望の目が光り、自分の希望した将兵の看護は出来ず、曰夜悶悶として過ごした。彼女に遂に院長の魔の手がのび、一瞬にして清い乙女の体は中年男のみだらな欲望に踏みにじられた。
その後もそれだけはゆるしてと泣きながら哀願する彼女をしりめに、毎夜の様にさいなむ院長。これが帝国軍人のなすべき事か、あまりの事に或夜この男を殺して、自殺しようと毒薬を入れた酒を飲ませ様としたが、無念にも彼女を妬む同僚にみやぶられ、院長の知るところとなり、目にあまる拷問のすえ、遂に最前線の野戦病院に転勤させられてしまった。
この事実を何度か暴露してやろうとしたが、上官に一笑にふせられ、取り上げられぬのみかいまわしい院長殺しの陰謀が、罪科として自分につきまとい、何時も白い目で見られしいたげられて来た。
曰本軍隊の誇り高い蔭には、みにくい高級幹部の為に生けにえとなり、自ら慰安婦までになり果てた女は決して私だけではない。と涙ながらに語りおえた。
より大きな地図で 慰安所マップ を表示