吉林省 琿春

日本軍将兵の戦記

畑谷好治『遥かなる山河茫々と』私家版、2002年。琿春憲兵分隊

私が赴任して一年程の間に三軒の慰安所が新規開業した。琿春は国境の特殊地帯であるために住民は居住証明書を所持せねばならず、初めて入琿する慰安婦たちは憲兵隊に出頭し、慎重な身上調査を受けた後、身分証明書の交付を受けていた。
私も何度か彼女たちの面接を受持ったが、必要書類に本籍、住所、氏名、年齢、学歴、家族構成等が書きこまれ、写真が貼付されてあつた。
憲兵は防諜的見地からの注意義務を教え、思想、軍事知識の有無等の身上調査を主眼として審査をしていた。
私は少し横道に逸れた質問であつたが「どんな仕事をするのか知っているのか」と聞いてみたところ、ほとんどが、「兵隊さんを慰問するため」「私は歌が上手だから兵隊さんに喜んでもらえる」云々と答え、兵隊に抱かれるのだということをはつきりと認識している女は少なかつた。
あるいはわざと返事をぼかしていたのかも知れないし、自分の日から公娼になるのだとは言えなかつたのかも知れなかった。
女たちは、慰安所の主人となる者か、あるいは女街から貰った前借金を親に渡し、または親が直接受取り、家族承知の上で渡満してきたもので、正当な契約書があったか、否かは定かではなかつたが、誰もが例外なく、「早く前借金を返し、お金を貯めて親兄弟に送金するのだ」と語ってくれた。

 

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