ビルマ ミッチーナ
日本軍将兵の戦記
藤野英夫『死の筏 シンガポール・ビルマ戦記』文芸社、2003年
慰安所は、このまちの南端、イラワジ河に面した見晴しの良い木造三階建ての校舎で、ここに向かって日曜日の朝から殺到する兵隊たちは、遅れてはならじと、我先に先陣を競い合う。
〔中略〕当日の慰安所オープンと同時に、押し寄せた兵隊たちが自分の馴染みの女の子の名を呼ぶ声、これに答える金切り声、同じ女に鉢合わせする者、早々と互いに後朝の別れを惜しむ声、声、声、そのうえに一、三階ともに軍靴と帯剣の音などがまじり合い、名状し難いあわただしい気配が漂い、大混線を呈する。
まさにここはセツクスの市場であり、戦場でもあるが、もとはと言えば学校校舎のこの建物内に日曜日ごとに起こるあたりを憚からぬ性本能のすさまじい叫喚を、現地人はどのように見て感じているのだろうか。