「従軍慰安婦」などの教科書記述に対する政治介入を批判する声明

 文部科学省は2021年9月8日、中学社会、高校地理歴史、公民科の教科書発行者5社から、「従軍慰安婦」「強制連行」などの用語・記述などに関して訂正申請があり、承認したと発表した。訂正申請では、「従軍慰安婦」の「従軍」が削除されたり、「いわゆる従軍慰安婦」という記述をなくした例があったという。また、「いわゆる従軍慰安婦」という例は残しつつも、注釈に「日本政府は、『慰安婦』という用語を用いることが適切であるとしている」との政府見解を付記した例もあったと報じられている。さらに、朝鮮人の「強制連行」という用語が訂正された例があったとされる。


 これらは日本政府による教科書記述への政治介入の結果、生じたものである。


 日本政府は、2021年4月27日に「政府としては、「従軍慰安婦」という用語を用いることは誤解を招くおそれがあることから、「従軍慰安婦」又は「いわゆる従軍慰安婦」ではなく、単に「慰安婦」という用語を用いることが適切であると考えており、近年、これを用いているところである」との答弁書を閣議決定した。また、同日、「朝鮮半島から日本への労働者の移入」について、「「強制連行された」若しくは「強制的に連行された」又は「連行された」と一括りに表現することは、適切ではない」などとする答弁書を閣議決定した。


 これらの閣議決定の問題点はすでに7月8日の声明でも言及したが、あらためて指摘すれば次のとおりである。①根本的な問題として、歴史の解釈と用語をときの政権の都合で閣議決定することは、歴史事実の軽視であり危険である。②歴史研究の成果を無視して、日本軍「慰安婦」制度が女性たちの意に反して強制的におこなわれたことを否定するとともに、日本軍の存在と責任を抹殺する意図から、「従軍」を外すべきだとしたことである。③戦時期に国家主導でおこなわれた朝鮮人労働動員政策に関して、これまでの研究において実態の検討を踏まえて「強制連行」などの用語が用いられてきたことを無視し、政策全体に対してそうした表現を用いることは「適切ではない」としたことなどである。


 上記の閣議決定を踏まえ、5月12日の衆院文部科学委員会で、萩生田光一文部科学大臣は「教科書検定基準」(2014年改正)に基づき「教科用図書検定調査審議会において、当該政府の統一的な見解を踏まえた検定を行」うと答弁した。また、同委員会で文部科学省は、政府の統一的な見解を踏まえずに「従軍慰安婦」などの用語が使用される場合は、「児童生徒が学習する上に支障を生ずるおそれのある記載に該当する」(教科用図書検定規則)とし「教科書発行者が訂正申請を行わなければならない」と述べた。そして、教科書発行者が申請を行わない場合、申請を勧告する可能性を否定しなかった。


 さらに、文部科学省は5月に、中学社会、高校地理歴史、公民科の教科書を発行する20社近くの編集担当役員らを対象に、説明会を開催し、上記の閣議決定の内容などを説明し、直接教科書発行者に対して圧力をかけた。


 今回の教科書発行者による訂正申請は、こうした政府からの圧力の結果に他ならない。これは、ときの政権が歴史の解釈と用語を決定し教科書記述に対して政治介入をおこなったということであり、到底許されることではない。学問の自由、言論・出版の自由を否定するものであるとともに、実証的な研究にもとづいた教科書記述を政治的意図から歪曲するものであり、きわめて重大な問題である。


 また、こうした行為は、日本による加害の歴史を正当化することであり、断じて認めることはできない。日本政府に抗議するとともに、教科書記述への不当な介入をとりやめることを求める。
 

   2021年9月13日
Fight for Justice (日本軍「慰安婦」問題webサイト制作委員会)

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