【『帝国の慰安婦』事態】『帝国の慰安婦』事態関連クロニクル

年月 『帝国の慰安婦』 裁判関連
2013 『帝国の慰安婦』韓国のプリワイパリ社より刊行される。
2014.6 「ナヌムの家」に暮らす9名の日本軍「慰安婦」被害者が、本書の記述が名誉棄損にあたるとして告訴状を提出(刑事)。出版差し止めの仮処分、「慰安婦」被害者への接近禁止を申請。著者と出版社に損害賠償訴訟を提起(民事)。(注1
2014.7〜11 この間、仮処分の審理が3回開かれ、「慰安婦」被害者は参席したが、朴氏は1回も参席しなかった。
2014.11 日本語版が朝日新聞出版より刊行される。
2015.2 ソウル東部地方裁判所は、出版差し止め仮処分申請の一部を認め、34ヵ所の記述(注2)が名誉毀損だとし、削除を命じる。
2015.6 削除を命じられた34ヵ所を伏せ字(○○と表示)にした韓国語第2版がプリワイパリ社より刊行される。
2015.8〜9 検察は刑事起訴前に、調停を提案。原告側は、著者の謝罪、韓国語版第2版の伏せ字表現の是正、他国での出版における同個所の削除を求めたが不成立。
2015.10 『帝国の慰安婦』日本語版が第27回アジア・太平洋賞特別賞(毎日新聞社主催)受賞。第15回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞(早稲田大学主催)受賞。
2015.11 日本の学者ら54人が「朴裕河の起訴に対する抗議声明」発表。 ソウル東部地方検察庁は、名誉毀損の罪で朴裕河を在宅起訴した。(「出版物等による名誉毀損罪」ではなく、一般名誉毀損罪のうち虚偽事実の公表の罪で起訴)。
2015.12 韓国の知識人194人が「『帝国の慰安婦』の刑事起訴に対する知識人声明」発表。
韓国内外の研究者・活動家ら380人が「『帝国の慰安婦』事態に対する立場」発表(注3)。
2016.1 ソウル東部地裁は被害者一人あたり1千万ウォン、計9千万ウォンを支払うよう命じた(被告側は控訴)。
2016.2 朴氏が『帝国の慰安婦』韓国語第二版をインターネットで無料公開。 ソウル東部地裁が損害賠償金の差し押さえを認めたことを受け、世宗大学が朴氏の給与の一部差し押さえを通知。2〜3月の給与の一部差し押さえ。
2016.3 研究集会「『慰安婦』問題にどう向き合うか 朴裕河氏の論著とその評価を素材に」が東京大学キャンパスにて開催される(注4)。 仮処分異議申請裁判開始。ソウル高裁は朴氏による強制執行停止申請を認め、賠償金の半額の4500万ウォンの供託金を裁判所に預けるよう命じ、朴氏は同額を預ける。
2016.5 現在も裁判係争中。朴氏は「国民参与裁判」の実施を申請中。

注1)韓国では名誉毀損は刑法で裁かれる。つまり、当事者が検察に刑事告訴し、検察が捜査する制度になっている。イ・ナヨン氏インタビュー「戦時性暴力システムを問う」『世界』2016年4月号、岩波書店参照。

注2)「『帝国の慰安婦』出版禁止箇所(34ヶ所)と日本語版の表現」鄭栄桓著『忘却のための「和解」:『帝国の慰安婦』と日本の責任』(世織書房)参照。

注3)前田ブログ http://maeda-akira.blogspot.jp/2015/12/blog-post_10.html など参照。

注4)2016年3月28日開催。外村大氏(東京大学教授)の発案で、金富子氏(キム・プジャ/東京外国語大学教授)、中野敏男氏(東京外国語大学教授・当時)、西成彦氏(立命館大学教授)、本橋哲也氏(東京経済大学教授)が実行委員となり呼びかけた。まず、同書に肯定的な「西・本橋推薦枠」から西氏、岩崎稔氏(東京外国語大学教授)、浅野豊美氏(早稲田大学教授)、同書に批判的な「金・中野推薦枠」から鄭栄桓氏(チョン・ヨンファン/明治学院大学准教授)、梁澄子氏(ヤン・チンジャ/「慰安婦」問題解決全国運動共同代表)、小野沢あかね氏(立教大学教授)が報告をした。その後、双方より指定された発言者各5名、西・本橋推薦枠:木宮正史氏(東京大学教授)、太田昌国氏(評論家)、上野千鶴子氏(東京大学名誉教授)、李順愛氏(イ・スネ 研究者)、千田有紀氏(武蔵大学教授)、金・中野推薦枠:吉見義明氏(中央大大学教授)、金昌禄(キム・チャノク/慶北大学校教授)、北原みのり(作家)、金富子氏、中西新太郎氏(元横浜市立大学教授)が意見を延べ、総合討論が行なわれた。

研究集会についての記事として現在のところ以下のようなものがある。

土田修「朴裕河氏の「帝国の慰安婦」をめぐり擁護と批判で初の討論会」『ハンギョレ新聞』日本語版2016年4月23日、同、韓国語版 http://www.hani.co.kr/arti/international/japan/740933.html

本誌取材班「激論!『帝国の慰安婦』をめぐるシンポジウム」『週刊金曜日』2016年4月22日(1085号)

 岡本有佳「問われているのは日本社会だ〜『帝国の慰安婦』をめぐる議論から」『放送レポート』(2016年6月号、メディア総合研究所)

竹内絢「朴裕河『帝国の慰安婦』めぐり討論集会」『女たちの21世紀』86号(2016年6月号、アジア女性資料センター)など。
なお、全記録を実行委員会で準備中とのことである。

(作成:岡本有佳)【2016年6月7日更新】

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