4-3 女性国際戦犯法廷と最終判決文

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女性国際戦犯法廷とは

1-8 書映2法廷2000年12月、東京・九段会館で「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」が、被害女性六四人を招いて開廷されました。3日間の法廷の審理では、首席検事の共通起訴状の朗読、各国ごとの検事団の審理、被害者本人・ビデオによる証言、証拠展示、裁判官質問が行われ、その合間に専門家証人、日本軍元兵士(金子安次・鈴木良雄さん)証言が盛り込まれました。招請を無視した日本政府の見解は、アミカス・キュリエ(法廷助言者)が陳述しました。

 

東ティモール法廷には膨大な証拠(書証と人証)が提出されましたが、法廷当日に、各国の被害者が貴重な証言(ビデオ証言含む)しました。証言をしたのは、朴永心、河床淑、金英淑、文必、金福童、安法順(以上、南北コリア)、万愛花、袁竹林、楊明貞(中国)、トマサ・サリノグ、マキシマ・デラ・クルス、エステル・デラ・クルス・バリンギット、レオノラ・ヘルナンンデス・スマワンほか(フィリピン)、盧満妹、イアン・アパイ、高寶珠(台湾)、ロザリン・ソウ(マレーシア)、エリー・ヴァン・デル・プローグ、ヤン・ラフ=オハーン(オランダ)、マルディエム、スハナ(インドネシア)、エスメラルダ・ボエ、マルタ・アブ・ベレ、エルメネジルド・ベロ(東ティモール)でした。

また、日本軍元兵士として金子安次・鈴木良雄さんが証言をしました。

 

法廷専門家証言としては、山田朗(明治大学教授)が「天皇の戦争責任」を、林博史(関東学院大学教授)が「日本軍の構造」を、吉見義明(中央大学教授)が「慰安婦制度」に関する証言と証拠展示を行い、天皇の戦争責任や「慰安婦」制度への軍及び天皇の関与に関する立証に貢献しました。

 

またレパ・ムラジェノヴィッチ(ベオグラード・暴力反対自立センター)がトラウマ・PTSDを、フリッツ・カールスホーベン(オランダ・ライデン大学名誉教授)は「国家責任」を、藤目ゆき(大阪外国語大学助教授)が「日本人『慰安婦』」について、証言しました。

 

国際法で名高い検事団・判事団

首席検事団は、パトリシア・ビサー・セラーズ(旧ユーゴスラビア国際刑事法廷法律顧問)、ウスティニア・ドルゴポル(豪フリンダース大学国際法助教授)がつとめました。

 

判事団(裁判官)には、ガブリエル・カーク・マクドナルド(旧ユーゴスラビア国際刑事法廷前所長)やクリスチーヌ・チンキン(ロンドン大学国際法教授)、カルメン・マリア・アルヒバイ(国際女性法律家連盟会長)、ウィリー・ムテゥンガ(ケニア人権委員会委員長)など国際法の名高い専門家が加わりました。

 

そのうえで、法廷の判事団は、犯罪が行われた当時の国際法に拠って、「昭和天皇の有罪」「日本政府に国家責任」という「認定の概要」を示しました。

 

 

最終判決文が下した有罪判決—「慰安婦」制度は「人道に対する罪」

法廷の証言者—被害女性・元兵士・専門家約1年を経て翌年12月4日に、オランダ・ハーグで下された最終判決文では、「慰安所」制度に対する詳しい事実認定と法的分析を行い、「日本軍と政府当局は第二次大戦中に、『慰安婦』制度の一環として日本軍への性的隷属を強要された数万人の女性と少女に対して、人道に対する罪としての強かんと性奴隷制を実行した」(666項)と有罪を認定しました。

 

「性奴隷制」こそが適切な用語

最終判決文は、「慰安婦」制度を「制度化された強かん、すなわち性奴隷制」(583項)としました。「性奴隷制」は、歴史的に「強制売春」と呼ばれていた犯罪名を改める、より適切な用語であると付言しています。「強制売春は性奴隷制と本質的に同じ行為を伴うにもかかわらず、同程度に悪質な行為であることを伝える言葉ではない」として、「強制売春」はこの制度を利用する側の男性の見方ですが、「性奴隷制」は被害者の立場から、「被害者の受ける従属と苦悩をより適切に捉えている」(636項)としています。

 

また「一部の「慰安婦」が日本軍から支払いを受けていたとしても、性行為を拒否する自由な意志が奪われていた以上は、彼女たちの状態は性奴隷制であった」(656~660項)と的確に指摘しています。

 

被害者の救済を求める権利は国家間条約で消滅できない

さらに最終判決文は、被害者個人への補償は「国家間条約で解決済み」の根拠とされるサンフランシスコ平和条約(1951年)に対して、次のような判断を示しました。

 

「ある国家が他の国家の人道に対する罪の責任を放棄することはありえない。…サンフランシスコ平和条約に含まれる放棄条項は、連合国も、同条約の条件を何らかの形で受け入れた被害諸国も、人道に対する罪...に対する日本の責任を放棄するような法的能力や権利を有しなかったという理由で、無効である。」(1036項)

即ち、「人道に対する罪」の被害者が救済を求める権利は、国家間条約で消滅することはできないとしています。また判決は、平和条約締結時にジェンダー偏見が内在するとした首席検事の主張に説得力を認め、次の指摘をしました。

 

「我々は、女性が、個人・集団として、平和条約締結時に男性と同等の発言権や地位を有しておらず、その直接の結果として、軍性奴隷制と強かんの問題は、当時取り上げられずに終わり、平和条約の交渉や締結の背景とはならなかったことに注目する。本法廷は、国際的和平プロセスでこのようにジェンダーが無視されることは、武力紛争下の女性に対する犯罪の不処罰の文化を継続させることになると考える。」(1051項)

 

日本政府への勧告

4-3 画像wam法廷カタログ

最終判決文は、日本政府に対して、次のような勧告をしました(1086項)。

(旧連合国、国連及び加盟国への勧告もありますが、略します)

 

1.「慰安婦」制度の設立に責任と義務があること、この制度が国際法に違反するものであることを全面的に認めること。

2.法的責任をとり、二度と繰り返さないと保証し、完全で誠実な謝罪を行うこと。

3.ここで宣言された違反の結果として、犠牲者、サバイバーおよび回復を受ける権利がある者に対し、政府として、被害を救済し将来の再発を防ぐのに適切な金額の、損害賠償を行うこと。

4.軍性奴隷制について徹底的な調査を実施する機構を設立し、資料を公開し、歴史に残すことを可能にすること。

5.サバイバーたちと協議の上で、戦時中、過渡期、占領期および植民地時代に犯されたジェンダーに関わる犯罪の歴史的記録を作成する「真実和解委員会」の設立を検討すること。

6.記憶にとどめ、「二度と繰り返さない」と約束するために、記念館、博物館、図書館を設立することで、犠牲者とサバイバーたちを認知し、名誉を称えること。

7.あらゆるレベルでの教科書に意味のある記述を行い、また、研究者および執筆者に助成するなど、公式、非公式の教育施策を行うこと。違反行為や将来の世代を教育する努力が行われること。犯罪の原因、犯罪を無視する社会、再発を防止するための手段などを調査する努力をすること。

8.軍隊とジェンダー不平等との関係について、また、性の平等と地域のすべての人々の尊重を実現するための必要条件について、教育を支援すること。

9.帰国を望むサバイバーを帰国させること。

10.政府が所有する「慰安所」に関するあらゆる文書とその他の資料を公開すること。

11.「慰安所」の設置とそのための徴集に関与した主要な実行行為者をつきとめ、処罰すること。

12.家族や近親者から要望があれば、亡くなった犠牲者の遺骨を探して返還すること。

 

<引用・参考文献>

・VAWW-NET ジャパン編・『女性国際戦犯法廷の全記録Ⅰ 日本軍性奴隷制を裁く2000年女性国際戦犯法廷の記録第5巻』緑風出版、2002年

・VAWW-NET ジャパン編『女性国際戦犯法廷の全記録Ⅱ 日本軍性奴隷制を裁く2000年女性国際戦犯法廷の記録第6巻』緑風出版、2002年。

VAWW-NET ジャパン編『Q&A 女性国際戦犯法廷—「慰安婦」制度をどう裁いたか』明石書店、2002年

アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」編『女性国際戦犯法廷のすべて』wam catalogue、2006年

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